鉄道業界の中で唯一独自のNFTマーケットプレイスを展開しているJR九州。
今回はJR九州のNFT事業「JR九州NFTプロジェクト」ファウンダーの牛島さんに独自マーケットプレイスを活かしたNFTの活用戦略から地方創生とNFTの相性の良さ、「第1弾NFT」事業推進の裏話まで伺いました!
デジタル技術で地域活性化を目指すJR九州のNFT戦略
ーーー(編集部)本日はよろしくお願いいたします!まず、JR九州のWEB3事業に関しての取り組みとその背景を教えて下さい!
当社は2023年7月より『JR九州NFT』プロジェクトとして、マーケットプレイスの運営とNFTの販売・配布等を行っています。
背景としては、Web3.0の活用について検討開始していたという前提はもちろんありますが、コロナにより変化した生活スタイルにデジタルの活用を収益につなげていけるのではと考えていたということもあります。
その中で、デジタルを活用して、収益を得るまたはリアルの場への貢献を図ることができないかという観点から、様々なデジタル関連のコンテンツや技術を検討し、その結果の1つとしてNFTに注目するということになりました。
ーーー(編集部)JR九州のNFT事業の特徴と目的、期待している効果を教えてください。
「JR九州NFT」プロジェクトにはいくつかの特徴があります。
NFTを、販売商品としてのみ使用するのではなく、「証明」「記念」との親和性を生かしてリアルの場での配布や販売を通じてお客様と多様な接点を築き、新しい価値や九州の楽しみ方を提供することを目指しています。
例えば、配布においては、駅や列車で取得できるような仕掛けを行いましたが、「現地で取得する」という点にはこだわっています。現地でNFTを取得していただくことが記念になりますし、NFTを取得するために九州に足を運んでいただけるのであれば、それは地域の活性化にも貢献できると考えています。。
また、販売においては、鉄道コンテンツがメインではありますが、タカラトミーさまのプラレールとコラボしたコンテンツ作りを行うなど、幅広い層のお客様に関心を持っていただけるようなラインナップを目指しています。
そして、さらに、JR九州NFTを持っていることに対してのインセンティブを提供することで、“JR九州NFTを保有すること”がメリットとなり、九州を楽しむことにつながっていくという世界観を作っています。
期待している効果としては、NFTが新しい価値や九州の楽しみ方の提供が、お客様の暮らしに活気をもたらすことにつながり、当社とのつながりを強めるファンコミュニケーションツールとなることです。九州で暮らすこと、九州で過ごすことに活気が生まれることは、地方創生の原動力になると思っています。
ーーー(編集部)これまでどれくらいのNFTを販売していますか?
これまでの10ヶ月あまりの期間では、販売だけですと36種類です。
駅での配布、列車での配布を入れると67種類あります。インセンティブとして発行してきたコンプリート特典のNFTなども含めると80種類ほどになります。
ーーー(編集部)NFTの購入者は鉄道ファンが多いのでしょうか?それとも一般のユーザーが中心ですか?
実際のところ、ウォレットアドレス以外の情報は収集していないため、どのようなお客様が購入しているのかは正確には分かりません。
ただし、現在JR九州NFTを持っていただいているお客様の多くは、JR九州NFTで初めてウォレットを作っていただいた方なので、鉄道や当社に関心を持っていただいている方々ではないかと考えています。
ーーー(編集部)参考になりました。次の質問ですが、既存のNFTマーケットプレイスが多い中で、独自のNFTマーケットプレイスを構築した理由を教えて下さい!
まず、当社がデジタル活用施策の検討を始めたのが2022年5月頃からで、NFTに初めて触れたのは2022年7月頃でした。
それから調査・検討を始め、半年ほどでJR九州NFTプロジェクトの方向性を整理し、サービス開始が2023年7月というスケジュール感だったのですが、調査の仕方が悪かったのかもしれませんが、当時調査できたのは「販売」か「配布」のいずれかが得意なソリューションが多かったように感じました。
そのような状況でしたので、お客様との接点を増やすためにも販売・配布の両方を柔軟に行うために、独自のマーケットプレイスを構築することにしました。
第1弾NFT「かもめ」シリーズ販売の裏側
ーーー(編集部)ありがとうございます。次に、第1弾のNFTとして「かもめ」シリーズを販売された背景についてお聞かせください。
西九州新幹線「かもめ」は当時最新の車両ということもあり、また、2023年5月にブロックチェーンEXPOにて無料試験配布した際、「『JR九州NFT』も発車準備中」ということで運行開始前の西九州新幹線「かもめ」を使用しました。「販売開始」は、準備中から発車に至ったタイミングということもあり、西九州新幹線かもめを含む商品の販売を決めました。
また、「かもめ」という名前は過去にも別の車両で使われており、同じ名前の時系列的に異なる車両のコレクションというのも面白いかと思い、「かもめ」シリーズでスタートしました。
ーーー(編集部)かもめのNFTを販売するにあたって、苦労した点や難しかった点があれば教えていただきたいです。
ローンチした2023年7月の最初の施策が「販売」だったので、販売開始=プロジェクトローンチということになりますが、プロジェクト開始については、上司含めNFTに関心があったことや、NFTを手段として使用する構想で進めたこともあり、事業化まではスムーズに進んだと思います。
一方で、NFTの持つ可能性に対する理解や将来性についての社内共有に時間がかかると感じている部分があるので、実績作りをするとともに、有効性を認識してもらうような水平展開への工夫が必要だと感じています。そのほかにもシステムに関する個人的な知識レベルの問題や、商品化、告知面などクリアしなければならないものはまだまだたくさんあります。
ーーー(編集部)事業部メンバーの反応などはいかがでしたでしょうか?
検討時は1人で、立ち上げ時には2人体制で進めているという状況でしたし、周囲の社員もNFTやブロックチェーンというものに対しての知識はほとんど持っていないというのが現実だったので、「何となく難しそう」というのが正直な反応だったのではないでしょうか。
その分、その「難しそう」という印象を持たせないために、日本円で購入する通販の延長上に位置付ける仕組みであったり、クーポンやスタンプのような使い方ができる気軽なツールとしての設計に生かせたと思います。ファンコミュニケーションを図れる、新しいマーケティングツールだという点も前向きに捉えてもらえたポイントだったように感じます。
地方創生ツールとしてのNFT活用戦略
ーーー(編集部)ありがとうございます。次に地方創生という観点で駅周遊によるデジタルスタンプラリーに関して教えて下さい。
スタンプラリーという形でのイベントは実施していませんが、2023年9月~10月の約50日間で、九州内の県庁所在地+αの全10駅でNFTを無料配布しました。(10駅のNFT取得でコンプリート特典NFTプレゼント付き。)
この取り組みでは位置情報を取得してNFTを配布するため、現地でしかNFTを取得することができません。
結果的に10駅合計で、800人以上ものお客様に、約2,500枚のNFTを取得いただきました。10駅をコンプリートしたお客様が120名ほどにもなり、1駅取得に次いで2番目に多かったという点に何よりも驚きました。
また、現在、位置情報ゲーム「駅メモ」シリーズとのコラボレーション企画として、博多~小倉~佐伯の区間の6駅でNFTの配布を行っておりますが、乗車人数の少ない駅が、多い駅を上回る取得状況にあるなど、面白い現象が起こっています。
まだまだ参加人数という意味では規模が小さい取り組みではありますが、有効な周遊促進ツールであり、現地に足を運んでいただける地方創生につながるものとしてのポテンシャルを感じています
ーーー(編集部)すごいですね。ちなみに、どういった理由でこれほどの効果が得られたのでしょうか?
今回は「駅メモ」シリーズでコラボしたキャラクターのバースデー企画として実施しているということもあり、キャラクターがデザインされたNFTを取得できるほか、駅にバースデーメッセージを残すためのノートやキャラクターのパネルを設置しています。「駅メモ」ユーザーの熱量に助けられている形ですが、それを見に来て、メッセージを書いて、NFTを取得するという感じです。
ーーー(編集部)すごいですね。本当にこれだけでこれほどの効果が得られるとは、いろんな可能性がありますね。NFTを使って数値を可視化することで、今まで曖昧だったキャラクターやアニメの効果が具体的に見えるようになりました。そこにNFTがちょっとだけでも役立っていると、さまざまな可能性が広がりますね。
「データを取れる」ということもNFTのメリットなど考えています。
従来の物理的なスタンプ帳を使うスタンプラリーは、スタンプ帳の印刷費もかかりますし、何回押されたかもわからない。デジタルであればユーザー側はいつでもコレクションを見られますし、スタンプ帳を忘れたということもない。
企業側もデータが取れますし、経費も安く済む可能性があります。アナログなスタンプラリーに比べて、子どもの参加しやすさやスタンプを押す楽しみはありませんが、その点を除けば両者に満足度が高いと思います。知恵次第で、お金をかけずにいろんな仕掛けができそうな将来性を感じます。
業界全体で協力しWEB3市民権を得る
ーーー(編集部)デジタルスタンプラリーを活用した周遊促進は他の鉄道事業者も参入してきていると思いますが、この鉄道事業のWEB3参入の流れに関して、JR九州としてどのように考えていますか?
鉄道会社や交通事業者にとって、NFTやブロックチェーン技術は、記念・証明という点で非常に親和性が高いと思っています。
特に、鉄道や航空などの物理的なネットワークを持つ事業者にとっては、これらの技術を活用することで、新しいビジネスの可能性が広がると考えています。また、鉄道事業者間での連携や他業種の企業等で連携ができれば、さらに大きな効果が期待できると思います。
ーーー(編集部)JR九州は既に独自のマーケットプレイスを構築していますが、その強みをどのように活かしていく予定ですか?
まずは当社にとって叶えたい世界観、機能の実現を目指したいと思います。その柔軟性が強みです。その柔軟性を生かして、一定の機能が揃ったら本格的にファンコミュニケーションに着手し、機能拡充してお客様に新しい価値をお届けし、またコミュニケーションの深度化を図る…というサイクルを繰り返すだろうと考えています。
JR九州NFTプロジェクトを展開していく中で、その都度、乗り越えるべき課題や必要な機能が出てくれば、その解決に向けて取り組んでいきたいと思います。
ーーー(編集部)ありがとうございます。次にJR九州NFTを通じて達成したいゴール、また今後チャレンジしていきたいことを教えて下さい!
当社はあるべき姿の中に、『九州、日本そしてアジアの元気をつくる企業グループ』ということを掲げています。その姿の実現の第1歩として、九州で過ごす日々に新しい価値や楽しみを提供するツールに、NFTを活用したいと考えています。
そのためにも、まず「JR九州NFT」の知名度を上げ、WEB3については分からずとも、当社のNFTを使った施策に対する理解と支持を得ることが重要だと思っています。そのためにも、さまざまな事業者やアーティストとコラボレーションし、認知度を高めていく必要があります。認知度が高まれば、ユーザーが増え、コミュニティとしての活用も進めていけるので、最終的には参加型のプロジェクトとして地域の活性化にも貢献していけるだろうと考えています。
ーーー(編集部)非常に参考になりました。最後に、JR九州NFTとして宣伝したいことがあればお願いします!
まだNFTに触れたことがない方にも、JR九州NFTをきっかけに気軽に体験していただきたいと思っています。私たちが展開するJR九州NFTプロジェクトは、“今まで(WEB2)”から逸脱しない、WEB2.5くらいの感覚で参加していただけるよう設計していますので、ぜひ気軽に触れていただきたいと思います。
また、これからも様々なコラボレーション企画を進めていきたいと考えています。当社の取り組みに少しでも興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご連絡ください。皆さまと一緒に新しい価値を創り出していけることを楽しみにしています。
ーーー(編集部)本日はありがとうございました!今後ともよろしくお願いいたします!