WEB3でチームと街の人たちでファン層を広げる。Jasmyが挑む『サガン鳥栖』とファンの新しい関係

サッカーJ2クラブ「サガン鳥栖」におけるファントークン事業。

その背後にはWEB3を活用して「応援の新しいかたち」を模索するJasmy株式会社の存在があります。
今回はこの事業を推進するJasmy CFOの原田さんに導入の背景や設計思想、地域との連携という観点でお話を伺いました。

本記事は前後編の2部構成です。後編も併せてご覧ください。
後編:『WEB3は地域経済の起爆剤になるか──サガン鳥栖発「共通ポイント構想」と地方創生への挑戦

目次

サガン鳥栖ファントークンの仕組みと目的

ーーー(編集部)本日はよろしくお願いいたします!まず、サガン鳥栖のファントークン事業について教えてください!

Jasmy 原田さん

ファントークンの導入は、コロナ禍によって機能しなくなってしまった従来のファンクラブ制度を補完できる、新たな仕組みをつくる必要性からスタートしました。

Jasmy 原田さん

サガン鳥栖ではこれまで、ファンクラブ会員になることで、好きな席を事前に確保できる“座席指定権”といった特典が大きな魅力となっていました。しかし、感染対策として全席指定席となったことで、ファンクラブの存在意義が希薄になり、実質的に制度は機能不全になってしまったのです。

Jasmy 原田さん

そのタイミングで、私たちが提案したのが「ファントークンを共通会員証として活用する」仕組みです。
スタジアムだけでなく、街中の店舗や知らない人同士などでも提示することで、応援していることが可視化され、特典が受けられるような設計を目指しました。
これは単に“ブロックチェーンを使う”というテック的な観点ではなく、応援の気持ちを目に見える形にする、という本質的な価値を再定義するための取り組みです。

ーーー(編集部)他のNFTやファントークンとは異なるアプローチですね。

Jasmy 原田さん

そうですね。私たちが考えるファントークンは、投資対象としての“上がる・下がる”といったものではなく、地域・クラブ・ファンをつなぐ会員証のような存在です。

Jasmy 原田さん

実際、トークンを購入した人が受け取るNFTは、デザインが進化していく「ダイナミックNFT」の仕組みを採用しています。これは、試合観戦に行ったり、地域イベントに参加したりすることでポイントが貯まり、NFTが“育つ”というゲーム感覚を取り入れたものです。
結果的に、「トークンを持っているだけ」で終わるのではなく、「活動することで、より深くファンであることが可視化される」そんな仕組みにしています。

Jasmy 原田さん

このようなアプローチを取ることで、サポーターだけでなく地域住民や商店街も巻き込みながら、クラブを“街全体で応援する”モデルがつくれると考えました。

応援でステータスの変化がわかるDynamic NFT

ーーー(編集部)なるほど、ファンと地域を同時に巻き込む狙いがあったのですね。ありがとうございます。

WEB3が描く「市民経済圏」のインフラ設計

ーーー(編集部)ファントークンの具体的な使い方や、地域との関係づくりについて教えてください。

Jasmy 原田さん

ファントークンは、ただのデジタルアイテムではなく、「クラブの応援者であることを証明する会員証」として機能するよう設計しています。ひとつは、これを地域の飲食店や商店などと連携させることで、ファンと街との間に新たな接点を生み出していこうという試みです。

Jasmy 原田さん

たとえば、試みのひとつとして、ファントークンを提示すると飲食代が割引になる、特別メニューが注文できるといった仕組みを構築し、地元の商店街を中心に約200店舗と連携したキャンペーンを実施しました。旗やステッカーを貼って「このお店はトークンに対応しています」と示すことで、地域全体がクラブを応援するムードを演出していたんです。

ーーー(編集部)商店街や地域の方々の反応はいかがでしたか?

Jasmy 原田さん

非常に好意的でした。
「普段お店に来ない若い人がファントークンをきっかけに来店してくれた」という声や、「ファンとの会話のきっかけになる」といった反応が多かったです。
まさに、NFTが人と人をつなぐ“会話の起点”になっていたのは印象的でしたね。

地域のお店のご利用で参加できるデジタルスタンプラリー

推進の壁と、WEB3を感じさせない設計思想

ーーー(編集部)ファントークンという新しい仕組みを導入するにあたり、苦労した点はどこでしょうか?

Jasmy 原田さん

一番の課題は、やはり「WEB3」という言葉に対する心理的なハードルでした。特に地域においては、NFTやウォレットといった専門用語が出てきた時点で、「難しそう」「よくわからない」と拒絶反応を示されることも少なくありませんでした。

Jasmy 原田さん

そこで私たちが重視したのが、「WEB3をWEB3と感じさせない体験設計」です。ファントークンに触れてもらう入り口はあくまで“面白い”“便利”であること。技術的な背景を全面に出すのではなく、「ファンクラブの新しい形」や「スマホで使える応援証」という言葉で伝えることを徹底しました。

ーーー(編集部)ファンや地域の方々の反応に変化はありましたか?

Jasmy 原田さん

はい、確実に変化は感じています。
たとえばARおみくじを楽しんだ親子連れから「これNFTだったんですね」と言われたり、「アプリでスタンプラリーをしているような感覚だった」といった声もいただきました。
技術を感じさせないからこそ、使い続けたくなるという感想は、非常に手応えがありました。

サガン鳥栖おみくじAR
Jasmy 原田さん

もちろん、まだコアなファン層が中心で、地域の高齢層や一般層まで広がるにはもう一段の設計が必要ですが、「WEB3だから難しい」という壁は、正しい体験設計と丁寧な導線づくりで乗り越えられることがわかりました。

ーーー(編集部)今後は、さらに幅広い層へのアプローチが課題となりそうですね。

Jasmy 原田さん

そうですね。
WEB3を“語る”よりも、“触れてもらう”ことの方が大切です。私たちとしては、引き続き「楽しさ」「便利さ」の中にWEB3の価値を忍ばせるような形で、地域に根ざした実装を進めていきたいと考えています。

今回のインタビュー記事はここまでです!

※本記事は2025年1月にインタビューした内容をもとに作成しています。

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