ボランティア参加証明書NFTを全国の先駆けとして実施する神奈川県のWEB3行動変容実証事業

神奈川県では2024年に「WEB3を活用した行動変容促進に関する実証事業」として3つの領域でNFTを活用した実証実験を行っています。

この記事では「環境ボランティア事業」として湘南の海岸清掃ボランティアでのNFT配布に関して、神奈川県いのち・未来戦略本部室の和田さんとJAVO理事長の小茂鳥さんにお話を伺いました。(インタビュー実施日2024年11月に基づいた内容になり、最新情報とは異なる部分がございます)

インタビューは2部構成となっていますので、前編も併せてご覧ください。
前編:『神奈川県のWEB3構想と「イノベーション人材育成」としてのNFT活用

目次

ボランティア参加証明としてのNFT

ーーー(編集部)本日はよろしくお願いします。まずは取り組みに関して改めて教えてください

神奈川県 和田さん

今回の実証事業では、「湘南ビーチクリーンアクション」という名前で海岸清掃ボランティアを実施しました。参加者には、参加証明書として活用できるNFTを配布しています。
具体的には、「湘南ビジョン研究所」と「湘南ウキブイ」という2つの団体にご協力いただき、以下の日程で活動を行いました。

湘南ビジョン研究所
11月9日(土):サザンビーチ茅ヶ崎
12月1日(日):片瀬西浜海岸

湘南ウキブイ
11月10日(日):茅ヶ崎ヘッドランド海岸
12月8日(日):茅ヶ崎ヘッドランド海岸

ボランティア参加者に配布されたNFT
神奈川県 和田さん

当日は、スマートフォンを使って参加者にNFTを配布しました。このNFTにはすぐに価値を持たせるのではなく、後から特典やインセンティブを追加する設計にしています。これにより、ボランティア活動を形に残しながら、さらなる行動につなげる仕組みを試みています。

また、NFTを取得した方を対象に特典イベントを開催予定です。このイベントでは、環境問題やNFTの新たな活用可能性について専門家が講演を行い、参加者とディスカッションをする場を設けました。このような試みを通じて、環境ボランティアの価値を広めると同時に、新しい仕組みの可能性を探っています。

ーーー(編集部)環境活動における行動変容を目指す中で、「海岸清掃」と「NFT」を組み合わせた背景についてお聞かせください。

神奈川県 和田さん

神奈川県では、「かながわ海岸美化財団」という団体が海岸ボランティアをまとめており、他県と比較してボランティア活動の基盤が非常に整っています。この財団を通じて、ボランティアで集めたゴミの回収がスムーズに行われており、個人が参加しやすい環境が整備されています。

一方で、従来のボランティア活動では、参加証明書が各団体ごとに独自の形で発行されており、統一的な規格や第三者的な評価基準がありませんでした。こうした課題に対し、実証計画を進める中で、日本で唯一ボランティア証明書を第三者的に発行している「JAVO」さんと協議し、NFTを活用した参加証明書の配布という方向性で合意しました。

神奈川県 和田さん

NFTの配布に関しては、デジタルガレージさんに企画設計を担当していただき、効率的かつ信頼性の高い証明書を提供する仕組みを構築しています。これにより、環境ボランティア活動への参加を促進し、行動変容を目指す新たな取り組みが可能になると考えています。

ーーー(編集部)JAVOさんにも今回の実証事業に参画した背景と、これまでのボランティア参加証明に関するお話をお聞かせください。

JAVO 小茂鳥さん

JAVOは、日本で唯一ボランティア参加証明書を第三者的に発行している機関です。これまで、ボランティア参加証明書の発行には多くの手間と負担がかかっていました。具体的には、ボランティア参加者から問い合わせを受けた後、私たちが各団体に連絡を取り、参加の記録を確認してようやく証明書を発行するという流れです。このプロセスには多くのステップが必要で、運営する側にとっても非常に負担が大きいものでした。

JAVO 小茂鳥さん

今回の実証事業に参画した背景として、こうした課題を解決したいという思いがあります。神奈川県との協議を進める中で、NFTというデジタル技術を活用することで、このプロセスを大幅に簡略化できるのではないかという方向性が見えてきました。簡単に参加証明を発行できる仕組みを整備することで、より気軽にボランティアに参加してくれる人が増えるのではないかと考えています。

JAVO 小茂鳥さん

さらに、高校生は推薦入試に、大学生は就職活動の「ガクチカ」としてボランティア参加証明を活用したいというニーズが非常に高いことも確認できています。この実証事業を通じて、ボランティア証明書の価値を高めるだけでなく、多くの方にとって利用しやすい仕組みを構築したいと考えています。

ボランティア×NFTで若年層の行動変容を促進させる

ーーー(編集部)インタビュー時点で合計2回海岸清掃ボランティアが実証されました。
ーーー(編集部)ここまでの参加状況とNFTの取得状況などに関してはいかがでしょうか?

神奈川県 和田さん

これまでに2回の海岸清掃を実施し、合計で80人弱の方に参加していただきました。ただ、小学生などスマートフォンを持たない参加者もいたため、NFT取得数は69個となりました。特に、全体の過半数が初めてボランティアに参加した方であった点が特徴的です。NFT配布を活用したプロモーションが、新たな参加者層の獲得に繋がったと考えています。

ーーー(編集部)参加者の動機としてはどのような要素があったのでしょうか?

神奈川県 和田さん

参加者アンケートの結果から、最も多かった動機は「環境への興味」でした。海岸清掃という活動に関心を持つ方が多い一方で、「NFTに興味があった」という理由で参加された方も一定数いらっしゃいました。これらのアンケート内容から、NFT活用によって参加者の好奇心を刺激し、行動変容を起こす可能性を感じました。

ーーー(編集部)実証自体は後2回ほどあると思うのですが、ここまでの実証を通して感じた気づきなどがあれば教えてください。

神奈川県 和田さん

実証を通じて、いくつかの重要な気づきがありました。まず、参加証明書については紙よりもデジタル(NFT)の形式を求める声が多かったことが印象的でした。当初は「デジタル+紙」の需要が高いと予想していましたが、参加者のニーズが完全にデジタル化に対応していることに驚きました。また、普段のボランティア活動と比較して若年層の参加が増えた点も新たな発見です。

神奈川県 和田さん

こうした結果を踏まえ、「経験」や「思いやり」といった目に見えない価値をデジタルで可視化するニーズが非常に高いことを実感しました。この取り組みが、今後のボランティア活動や他の施策にも応用できる可能性を感じています。

ーーー(編集部)残り2回に向けた意気込みなどがあれば教えてください

神奈川県 和田さん

これまでの2回を振り返ると、NFTの取得までの導線が十分に設計できておらず、作業的に配布する形になってしまったことが課題として挙げられます。参加者がよりスムーズにNFTを取得できるよう、プロセス全体の見直しが必要だと感じています。

また、NFT配布の際にはアプリのダウンロードが必要となるため、次回は事前にダウンロードを促す仕組みを工夫したいと考えています。例えば、事前案内でダウンロード方法を詳しく案内するほか、当日のサポート体制を強化することで、操作の負担を軽減する計画です。

神奈川県 和田さん

さらに、参加者アンケートや発行プロセスの説明についても改善の余地があります。次の2回では、事前準備を徹底し、当日の流れがよりスムーズになるよう取り組みたいと思います。これらの工夫を通じて、参加者の満足度を高め、より良い実証活動を実現していきたいと考えています。

ワンチームで困難を乗り越える

ーーー(質問者)続いて企画を推進するにあたり、困難だった点があれば教えてください。

神奈川県 和田さん

今回の実証事業では、協力いただく団体とのコミュニケーションが一つの課題となりました。それぞれの団体が独自の信念や活動方針を持ち、独自の参加証明書を発行している背景があったため、NFTを活用した新しい仕組みを提案することが、従来の証明書の意義を否定しているように受け取られる懸念がありました。

NFTが持つ「唯一無二性」や「価値の付加」といった特長をどのように活動の目的や意義に結びつけるかを伝えるのが難しい部分でした。そのため、単に会議で説明を重ねるだけでなく、実際に現場のボランティア活動に参加し、活動を共にする中で徐々に信頼関係を築いていきました。

神奈川県 和田さん

こうした現場での交流を通じて、NFTの意義やメリットについてご理解いただき、最終的には協力を得られる形となりました。このように、対話を重ね、実際に活動に関わることで、少しずつ課題を乗り越えていくことができました。

ーーー(編集部)JAVOさんとして、困難だった点があれば教えてください。

JAVO 小茂鳥さん

途中から参加する形だったため、最初はどのように立ち回るべきか悩む場面が多くありました。

しかし、神奈川県やデジタルガレージ様と「ワンチーム」として取り組む中で、役割分担が明確になり、スムーズに進められるようになりました。この連携のおかげで、プロジェクトを無事に形にすることができました。

ーーー(編集部)最後にPRや宣伝などがあればお願いします。

神奈川県 和田さん

湘南ビーチクリーンアクション」は、まだあと2回実施予定ですので、時間のある方はぜひ参加していただければと思います。海岸清掃のボランティア活動に参加することで、自然環境について考えるきっかけになるだけでなく、今回のような新しい取り組みにも触れることができます。

神奈川県 和田さん

また、この取り組み以外にも、神奈川県内ではたくさんの団体が定期的に海岸清掃を行っています。どなたでも気軽に参加できる活動が多いので、興味があればぜひ一度足を運んでみてください。こうした活動を通じて、身近な環境について考えたり、他の参加者との交流を楽しむ機会を作っていただければ嬉しいです。

JAVO 小茂鳥さん

JAVOとしては、まずボランティア全体の参加者を増やすことを目標にしています。現在、日本人のボランティア参加者数は欧米と比べてもまだ少ない状況です。そのため、もっと気軽にボランティアに参加できる環境を整えることをミッションとして掲げています。

具体的には、様々な大学や団体と連携し、ボランティア活動のインフラを強化していきたいと考えています。また、各NPO法人が独自のフォーマットで活動を進めている現状を改善し、統一的な仕組みを作ることで、NPO全体のプレゼンスを向上させることを目指しています。

JAVO 小茂鳥さん

ボランティア証明書の発行枚数はこの10年で10倍に増加しており、さらに多くの方にボランティア活動を身近に感じてもらえるよう、JAVOとして取り組みを進めていきたいと思います。

▶JAVOの詳細はこちら

ーーー(編集部)ありがとうございました!引き続きよろしくお願いします!

目次