岡山県真庭市の「NFTを活用した地域資源活用事業実施業務」から生まれた「ネイチャーダオ真庭3100」。
この記事では、WEB3地方創生ねっとの創設者でもあり、プロジェクト発起人の1人である株式会社ICHIZEN HOLDINGSの水野さんに、本プロジェクトへの背景や想いについて伺っていきます。

水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS
代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時ブロックチェーンと出会う。2018年仮想通貨メディアCoinOtaku入社。2019年同社のCMO就任、2020年に東証二部上場企業とM&A。2022年(株)ICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ、Web3事業のコンサルティングを実施。大企業、海外プロジェクト、地方自治体まで幅広くWEB3プロジェクトを支援する。

水野 倫太郎
株式会社ICHIZEN HOLDINGS 代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時ブロックチェーンと出会う。2018年仮想通貨メディアCoinOtaku入社。2019年同社のCMO就任、2020年に東証二部上場企業とM&A。2022年(株)ICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ、Web3事業のコンサルティングを実施。大企業、海外プロジェクト、地方自治体まで幅広くWEB3プロジェクトを支援する。
ネイチャーダオ真庭3100|第一弾フサヒゲルリカミキリNFT

ーーー(編集部)本日はよろしくお願いします。まずは「ネイチャーダオ真庭3100」に関して改めて教えてください。
「ネイチャーダオ真庭3100」は、NFTや3Dなどデジタル技術を活用して、真庭市の豊かな自然や文化を持続可能な形で次世代へ継承していくプロジェクトです。
第一弾のNFTプロジェクトとして、絶滅危惧種の”フサヒゲルリカミキリ”をモチーフに、NFTの売上が全て個体数復活の為の活動に使われる「フサヒゲルリカミキリNFT」を販売します。
NFTの売上資金によってどのような自然活動が為されたかを常に可視化する仕組みになっており、絶滅危惧種の復活への貢献が少しでも実感できやすいようにしております。
また、NFTの購入者はフサヒゲルリカミキリの3Dモデルをダウンロードすることができ、普段は見ることも手に取ることもできない絶滅危惧種の3Dモデルを使って好きに遊ぶこともできます。
密猟被害を受けるフサヒゲルリカミキリですが、擬似的なフサヒゲルリカミキリを提供することで少しでも密猟被害を減らすことができればと考えています。
ーーー(編集部)2023年度はフィールドワークや関係機関との協議を重ね、2024年度からの実証実験に至ったと伺っています。その中で、数ある地域資源のなかから「フサヒゲルリカミキリ」を主軸に据えるに至った背景や、当初からNFTや3Dモデルと連動させる構想があったのかについて、お考えをお聞かせください。
フサヒゲルリカミキリを主軸に据えた背景としては、「世界で唯一真庭市の蒜山地域にのみ自然に生息している絶滅危惧種」という側面が非常にキャッチーでありながら、社会課題に取り組むことが出来るところです。
絶滅危惧種であるという部分だけでも、分かりやすく多くの人の注目を集めることが出来ると思いますし、、、
昨今このNFT・WEB3業界ではカーボンクレジットのトークン化などいわゆるReFiと言われる分野への注目が集まっており、何か地域資源を絡めるのであれば、ReFiの側面が絡めた方が良いなと思っていました。

その上で、NFT自体は最初から絡めようと考えており、3Dモデルは後から相性の良さとして絡めることにしました。
NFTをこの取り組みに絡めることで、NFTが購入された分、どの程度フサヒゲルリカミキリに貢献することが出来るのかという「貢献の可視化」が実現できると思っています。
3Dモデルは、フサヒゲルリカミキリが個体数が少ない上に、よく昆虫コレクターによって密猟されてしまうことが長年課題として挙げられていました。
そのため、3Dモデルのデータを配布することで、本当に少しでもコレクション欲求の抑制ができればと思っています。
また、個体数が少ないことからも、標本の数も全国的に少ないため、たとえ絶滅してしまったとしてもフサヒゲルリカミキリを次世代へ届けるために3Dデータは良い保存手段だと思っています。
「3100」に込めた想いとこだわり

ーーー(編集部)今回のプロジェクト名「ネイチャーダオ真庭3100」も、社内で複数案を出して真庭市・蒜山自然再生協議会と一緒に決めたと聞いてますが、
この名前に決まった背景や水野さん自身が大事にしたキーワードがあれば教えてください。
このプロジェクトを実行する上では、そもそも自然環境があるからこそ経済は成り立っている、人・文化・自然は共生している、それぞれは表裏一体であるというのが根底にあります。
その想いが「3100」に込められています。
「3100」は何がなんだかわからないと思いますが、この3100には「里山」の意味が込められています。
「3=さ 10=と 0=やま」としているのですが、最後の「0=やま」には飲食店などである、やま=無くなるという専門の隠語から無理やり引っ張ってきています(笑)。
ここのアイディアは平澤さんによるもので、流石電通マン!と思いました。

ーーー(編集部)3Dモデル、NFT連携、購入後のダウンロード導線、UI設計など、仕組みとしてかなり詰め込まれてますが、特に難しかった点や「ここは妥協しなかった」みたいなこだわりがあれば知りたいです。
最も大切にした部分としては、「NFTの購入が結局何に繋がるのか?」を可視化する部分です。
理想を言えば、例えばですが「10NFT購入される毎にフサヒゲルリカミキリの個体数が1体増えます!」とか言いたいのですが、研究もなく適当なことは言えません。
あくまで自然環境であるため、確実なことは言えないので。
そのため、環境省・蒜山自然再生協議会の方々と綿密に議論し、1NFTの購入によって実際にどのような行動がされるようになるか(電気枠の面積・ユウスゲの株数 etc…)、の可視化に落ち着きました。
今後はこれらを踏まえて、「どのような活動がどの程度の個体数に影響を与えるのか」に関しても研究を進めて可視化していきます。
より少しでも多くの方が貢献を実感しながらこのプロジェクトに関わってもらえるようになれればと思っています。
まずは真庭市の方々にフサヒゲルリカミキリを届けたい

ーーー(編集部)行政・環境省・協議会・社内・外部パートナーなど、かなり多くのステークホルダーと連携しながら動かしていたと思いますが、調整や説明の場で意識したことってありますか?
NFTやDAO、3Dモデルなど行政の方々がこれまで何も関わりがなかったであろう部分がこの事業では多くあります。
そのため、可能な限り専門用語を使わず、そして様々な例えも用いながらの説明を意識しました。
また、行政の方々はどうしても巨大な組織の中で確認しなければいけない事項などが多いため、どうしてもスピード感が落ちてしまいます。
私たちICHIZEN側で可能な限り動き、持ってもらうボールを明確かつ少なくしようとした部分にも気をつけました。
ーーー(編集部)フサヒゲルリカミキリのNFTや3Dモデルは、さまざまな分野の人たちが手に取る可能性がありますが、特にどういった層に届いてほしいと考えていますか?また、そうした人たちにどのように活用されると良いと考えているかもあわせてお聞かせください。
まずは真庭市に住んでいる人に手にとっていただきたいと思っています。真庭市に住んでいてもフサヒゲルリカミキリを見たことはおろか、そもそも存在を知らないという人が多くいます。
そのため、実は住んでいる地域に絶滅危惧種が存在していること、そしてそれを救うためのプロジェクトがあることを知っていただき、ぜひ少しでも関わっていただきたいと思っています。
蒜山自然再生協議会では、山焼きや電気柵の設置、茅かりなど頻繁にボランティアも募集しています。実際にそこに参加してくれる人が増えてくれたらと思っています。
善い人が得をする世界を目指して

ーーー(編集部)今回のように、絶滅危惧種を3Dモデル化しNFTでアーカイブするという仕組みは、自然資源の新たな記録・継承方法としても注目されていると思います。今後この取り組みが、他の種や地域資源にどのように応用・発展していけるとお考えですか?
整理すべきことですが、3Dモデル化することと、NFTにすることは同じではありません。
それぞれが独立しており、3Dモデル化自体は仰っていただいたようにデジタルアーカイブするという役割。
NFTはそれ自体を販売することで、取り組みに参加してもらうだけでなく、その方々の貢献を可視化するという役割です。
これを踏まえると、絶滅危惧種など日本だけでなく、この世界にとって重要なものを3Dモデルを通してデジタルアーカイブするというのは、ありとあらゆる生き物に対して応用できると思います。
真庭市においては、オオサンショウウオをはじめ、ホタルや蝶といった生き物から、シリゲ(切り絵)という文化財まで応用できると思いますし、他の地域でも同様の取り組みを広げていけると思います。
ーーー(編集部)あらためて、水野さんご自身にとって今回の「ネイチャーダオ真庭3100」はどのような意味を持つプロジェクトでしたか?
また、ICHIZENとしてこのプロジェクトにどんな思い入れを持って取り組んできたのか、組織としての視点もあわせてお聞かせください。
今回のプロジェクトは、弊社ICHIZENが掲げるミッション「善い人が得をする世界」に近づくものだと思っています。
岡山県真庭市自体、今回の取り組みがなければおそらく一生において訪れることだけでなく、知ることがなかったかもしれない土地だと正直思っています。(中国地方に行ったのが実は初めてでしたので、、、)
ですが、真庭市では千布さんを筆頭に多くの方が、地域の自然環境を守っていくために人知れず良い行動をしています。
そのような方々の努力が少しでも報われ、その想いが少しでも多くの人、そして次の世代に届くことができればと強く思っています。
正直会社の経営という視点だけで言えば、このプロジェクトに本気で取り組むのには経済的合理性はないと思っています。
ですが、「善い人が得をする世界」というミッション、そして弊社全員がこのミッション実現に向けて本気で動いているからこそ、会社全体が一丸となってこのプロジェクト推進に動くことができました。
改めて、会社としてのミッションの存在、ミッションに賛同してくれる仲間探し、これらの重要性を感じました。

ーーー(編集部)今回の「ネイチャーダオ真庭3100」は、絶滅危惧種のデジタルアーカイブとNFTを掛け合わせたスキームとして、国内でも前例のない試みになったと思います。このような取り組みが、今後Web3やデジタル技術の社会実装において、どのようなモデルや可能性を示す存在になり得ると考えていますか?
また、このスキームを広げていくうえで意識していることや、展望があれば教えてください。
昨今WEB3、特にNFTに関しては使えば売れる何かすごい万能なものだと思われている節があるなと感じています。そんな中、明確に「人の貢献の可視化」、クラウドファンディングのお返しの1つのような立ち位置として位置付けることで、ちゃんとした技術の使われ方がされるようになるかなと思っています。
そして3Dを用いたデジタルアーカイブ自体は、これを皮切りに様々な物質・無形質なものの保存に使えると思っています。
今後は真庭市・環境省・蒜山自然再生協議会の方々と共にオンラインセミナーなど開催し、この取り組みを幅広く知ってもらい、少しでも広げていければと思っています。