岡山県真庭市の「NFTを活用した地域資源活用事業実施業務」から生まれた「ネイチャーダオ真庭3100」。
この記事では、上記公募事業の担当者であり、プロジェクトの仕掛け人である真庭市役所の平澤さんに、本プロジェクトへの背景や想いについて伺っていきます。

Yosuke Hirasawa
平澤 洋輔
真庭市役所産業観光部産業政策課
回る経済推進係 係長
大東文化大学文学部卒。広告制作会社・広告代理店を経て、自然資本と地域経済の関係性の見直しこそがこれから日本にとって重要になるのでは、という仮説から岡山県西粟倉村に移住。事業会社での新規事業開発や、ローカルマーケティング支援会社の立ち上げを経験したのち、2019年に真庭市役所に入庁。自然資本を活用したネイチャーポジティブを軸とした回る経済の確立に向けて、様々なプロジェクトを手掛ける。

Yosuke Hirasawa
平澤 洋輔
真庭市役所産業観光部産業政策課
回る経済推進係 係長
大東文化大学文学部卒。広告制作会社・広告代理店を経て、自然資本と地域経済の関係性の見直しこそがこれから日本にとって重要になるのでは、という仮説から岡山県西粟倉村に移住。事業会社での新規事業開発や、ローカルマーケティング支援会社の立ち上げを経験したのち、2019年に真庭市役所に入庁。自然資本を活用したネイチャーポジティブを軸とした回る経済の確立に向けて、様々なプロジェクトを手掛ける。
真庭市にしかない資源を活用し前例のない価値創造にチャレンジする

ーーー(編集部)「ネイチャーダオ真庭3100」プロジェクトは、真庭市にとってどのような意義や役割を持つ取り組みなのでしょうか?
真庭市に限らず、地域にとって雄大な自然、祭りや風習、歴史から紡がれてきた資源は豊富にあります。一方で、それらの資源を現在の生活環境や価値観の中で持続させていくことは難しい時代になってきました。
この「ネイチャーダオ真庭3100」は、そういったこれまで可視化することが難しかった価値の可視化や新たな関係の構築に対してアプローチができる手法の一つであると考えていて、継続した関わりを生み出すことも期待しています。

ーーー(編集部)このプロジェクトが「NFTを活用した地域資源活用事業実施業務」として立ち上がった背景について、行政側としてどのように整理し、推進されてきましたか?
NFTが注目を集め始めた当初から、行政としてこの技術をどう活用できるかを検討してきました。
ブロックチェーンを活用することで、デジタルデータに「唯一性」という価値が生まれ、資産としての活用も可能になる——その可能性に大きな期待を寄せていました。
しかし事例を調べていく中で、NFTの多くが“既存のプラットフォームの代替”として使われているケースが目立つことに気づいたのです。
そこで、これまで大事だけどなかなか手がかけにくい取り組みや、投資対象になりにくい自然資本に着目してフィールドワークを重ね、地域の資源とNFTの相性を検討し、里山に関する生物や文化の保全に対してNFTの技術を活用することで、これまでにない価値の創造ができると考え、事業を推進してきました。
ーーー(編集部)自治体がNFTや3Dスキャンといった先端技術を導入する際、内部・外部からの反応や制度的なハードルがあれば教えてください。また、それをどう乗り越えてきたのでしょうか?
NFTに関しては、特に「販売」という点が大きなハードルとなりました。
そこで今回の取り組みでは、市の歳入歳出に組み込むのではなく、市内の任意団体などへの支援を最終的な出口とすることで、この壁を乗り越えることができました。
また、市が直接関与するのではなく、民間側がプラットフォームを主導する形をとることで、行政の枠を超えた柔軟な運用が可能となり、一定の持続性を持ったビジネスモデルとして成り立つことを目指しています。
これまでにない革新的なスキームを確立
ーーー(編集部)民間(特に広告・マーケティング)領域でのご経験を踏まえ、今回のプロジェクトにおいて「共感を生む仕組み」や「伝わり方」に関して意識されたことがあれば教えてください。
新しい技術の活用や、単一地域の取り組みだけでは、マーケティングとしては要素がやや弱いと感じていました。
しかし、「蒜山にしか生息していない生物」や「ユネスコ無形文化遺産への登録」といった、注目される地域固有のキーワードはすでに存在していたため、これらをいかに新しい技術で“価値として可視化”できるかを考えることが重要だと捉えました。
そのうえで、情緒的な価値と市場性のバランスを意識しながら、「共感を生むポイント」を丁寧に探っていった結果が、今回のプロジェクトにつながっています。

ーーー(編集部)自然保全というやや専門的なテーマを、一般の人に興味を持ってもらうために、マーケティング的に意識して設計したポイントなどがあればお聞かせください。
いくつか意識した点はありますが、ここでは3つに絞ってお話しします。
まず1つ目は、「自然との距離感」です。
自然保全というと、“守るもの”“守ってあげるもの”という受動的なイメージを持たれがちですが、私たちや蒜山自然再生協議会では、「利用と保全の両立」を大切なテーマとして掲げています。自然に触れる機会をどうつくるか、生きものたちとどう距離を縮められるかを考えることが、共感につながる設計の第一歩だと感じています。
2つ目は、「デジタルテクノロジーとの親和性」です。
NFTのような先端技術とは一見距離がある自然保全ですが、その“遠さ”がかえって面白さにもなり得ます。今回、希少生物をテーマにNFTを発行することで、自然や生きものへの関心を促す仕組みをつくりました。さらに、3Dスキャン技術を活用することで、絶滅危惧種と新しいかたちで関われる体験も提供できたのは、大きな発見でした。
そして3つ目は、「これまでにない手法であること」です。
NFTの多くは既存プラットフォームの代替として使われていますが、私たちはそこから一歩踏み出し、“他にはない事例”を意識して検証を進めました。NFTという手段に唯一性が宿ることで、蒜山の自然が持つ魅力を起点に、さらに多様な展開や掛け算が可能になったと感じています。
ーーー(編集部)自治体における情報発信や住民とのコミュニケーション設計において、今回のようなWeb3・NFTの構造はどのような可能性を秘めていると感じましたか?
Web3やNFTには大きな可能性を感じていますが、同時に、一般の方々にとっては理解や説明が難しいという現実も、今回の取り組みを通じて改めて実感しました。
特に、こうした新しい技術はどうしても「わかりやすい既存プラットフォームの代替」として捉えられやすく、その枠を超えて活用していくことのハードルの高さも感じています。
だからこそ、今回のような実証的な取り組みが各地で積み重なっていくことが、Web3やNFTの「構造としての可能性」を少しずつ可視化し、社会に受け入れられていくための一歩になると考えています。
人と自然の新たな関係性を築くための試みとして、こうしたチャレンジが全国に広がっていくことを期待しています。
“面白い”ドリブンで関係人口創出を画策
ーーー(編集部) フサヒゲルリカミキリのような象徴的な存在を通して、どのような“新しい地域の物語”が生まれることを期待していますか?
ごく一部にしか認知されていない生物の存在も、地域の歴史との関連性から読み解くとすごくロマンを感じるストーリーになります。そういった次々に物語が生まれることで、登場人物、いわゆる関係人口が多く生まれることを期待しています。そして、それぞれの物語が、地域を構築する一部になっていってくれたら嬉しいですね

ーーー(編集部) フサヒゲルリカミキリのような象徴的な存在を通して、どのような“新しい地域の物語”が生まれることを期待していますか?
まずは、「自然と関わることの面白さ」を知ってほしいです!
好き・嫌いという感情の前に、「なんだか面白い」と思ってもらえるかどうか。そこが入り口になると考えています。
ここは行政としても継続して考えていかなければなりませんが、その“面白い”の先にこそ、地域の未来へとつながる新しい橋が見えてくるのではないかと思っています。
ーーー(編集部) フサヒゲルリカミキリのNFTや3Dモデルについて、どのような人に届いてほしいとお考えですか?また、その人たちにどのように活用されることを期待されていますか?
自然再生や保全に関心のある方はもちろんですが、NFTという技術の可能性そのものを「面白い」と感じてくれる人たちにもぜひ届いてほしいと考えています。
また、市民の皆さんにもこれをきっかけに蒜山の自然に興味を持ち、「なんだか面白そうだな」と思ってもらえたら、とても嬉しいです!
私たち真庭市としては、NFTはあくまで“手段”であると捉えています。
この「真庭ネイチャーダオ3100」は、蒜山の自然環境や、そこに根づく歴史・文化的な価値を、次の世代へと確実に引き継いでいくことを目的としています。
そうした意味でも、地域の歴史や文化に関心を持つ団体や個人の方々にもぜひ関心を寄せていただき、第2弾・第3弾と展開を広げていけるような取り組みにしていきたいと考えています。
そして最終的には、全国各地でそれぞれの地域の“新たな物語”が生まれていくことを期待しています!
ーーー(編集部) ありがとうございました!引き続きよろしくお願いいたします!