岡山県真庭市の「NFTを活用した地域資源活用事業実施業務」から生まれた「ネイチャーダオ真庭3100」。
この記事では、蒜山自然再生協議会に所属し、現場面においてプロジェクトの中核を担当された千布さんに、プロジェクトへかける思いと実現させたい未来について伺いました。

Takuo Chibu
千布 拓生
蒜山自然再生協議会
鳥取大学農学部に在籍していた2008年から同大連合農学研究科を満期退学する2012年まで、大山隠岐国立公園大山蒜山地域奥大山地区にて、生物多様性に配慮した植生計画の策定をテーマに、植物相の調査や植生調査などのフィールドワークと、国立公園制度の研究、それらを踏まえた新しい植生計画案の策定に取り組む。2017年、民間企業に所属する傍ら、大学時代から取り組む研究テーマを論文にまとめ、鳥取大学大学院連合農学研究科から博士(農学)の学位を授与。2021年6月から3年間、岡山県真庭市の地域おこし協力隊として、真庭市が進める蒜山自然再生協議会の設立準備や、同会設立後は事務局として対外的な折衝や視察の受け入れ、山焼きや草刈り、登山道整備などの現場での自然再生作業の企画・運営、自然の案内などのガイド業などに従事。2024年6月からは真庭市集落支援員として、地域の自然や環境課題に取り組む傍ら、引き続き、蒜山自然再生協議会の事務局員も務めている。

Takuo Chibu
千布 拓生
蒜山自然再生協議会
鳥取大学農学部に在籍していた2008年から同大連合農学研究科を満期退学する2012年まで、大山隠岐国立公園大山蒜山地域奥大山地区にて、生物多様性に配慮した植生計画の策定をテーマに、植物相の調査や植生調査などのフィールドワークと、国立公園制度の研究、それらを踏まえた新しい植生計画案の策定に取り組む。2017年、民間企業に所属する傍ら、大学時代から取り組む研究テーマを論文にまとめ、鳥取大学大学院連合農学研究科から博士(農学)の学位を授与。2021年6月から3年間、岡山県真庭市の地域おこし協力隊として、真庭市が進める蒜山自然再生協議会の設立準備や、同会設立後は事務局として対外的な折衝や視察の受け入れ、山焼きや草刈り、登山道整備などの現場での自然再生作業の企画・運営、自然の案内などのガイド業などに従事。2024年6月~現在:真庭市集落支援員として、地域の自然や環境課題に取り組む傍ら、引き続き、蒜山自然再生協議会事務局も務めている。
インタビューは2部構成となっていますので、前編も併せてご覧ください。
後編:『蒜山から自然環境保全のスタンダードに |NFTを活用した絶滅危惧種との新たな関わり方』
真庭市蒜山地域の自然文化を保全する蒜山自然再生協議会
ーーー(編集部)はじめに、千布さんが所属されている「蒜山自然再生協議会」とは、どのような組織でしょうか?
また、普段どのような活動を行っているのか、簡単にご紹介いただけますか?
蒜山自然再生協議会は、真庭市が令和2年3月に策定した「蒜山地域振興計画」の基、産業政策課主導で設立の準備を進めてきた団体であり、令和4年1月20日に設立された任意団体です。
先人から引き継がれてきた蒜山地域の自然資源利用の仕組みを、現代の価値観やライフスタイルに合わせて再構築し、蒜山地域固有の自然、文化、景観を次世代に引き継ぐことを目標としています。
協議会は、地域住民・行政・専門家・民間事業者で構成しており、それぞれが委員として3つの委員会「自然再生活動委員会」「自然資源利用活動委員会」「広報・啓発活動委員会」のいずれか、または複数の委員会を兼務する形で所属いただいており、そのテーマに基づいた活動を担っていただいています。
事務局は必要に応じて、それらの活動の運営を企画・支援しています。また、年に2回総会が開催され、全体で活動結果や活用予定の共有・協議を行っています。
ーーー(編集部)千布さんご自身は、協議会の中でどのような役割を担われていて、普段はどのような業務に携わっておられるのでしょうか?
また、今回のプロジェクトにおける具体的な担当や動きについても教えていただけますか。

真庭市の担当課である産業政策課が事務局を務め、私もそこに所属する集落支援員として事務局員を務めており、主に以下3つの役割を担っています。
①会長や委員長、分科会長など所属いただいている委員への活動情報の共有や相談事項などの連絡調整
②協議会で主催する山焼きや草刈りなどのイベントや屋外作業などの企画・運営
③対外的な相談・依頼等に関する回答や、保全活動を行っている現場のご案内
などを日々行っています。
今回のプロジェクトでは、関係者である、企画をご提案いただいた真庭市産業政策課の平澤さんや株式会社ICHIZEN HOLDINGSの水野さん、フサヒゲルリカミキリの標本を貸出いただくにあたってご相談に乗っていただいたり、省内や関係各所に調整いただいた環境省中国四国地方環境事務所の岩本さん・山田さん、協議会の委員の皆さんと、様々に相談・調整させていただくことに注力させていただきました!
NFTという技術を活用し、新たな自然環境の保全を目指す
ーーー(編集部)今回の「ネイチャーダオ真庭3100」プロジェクトにおいて、現場の中心としてご尽力されてきたかと思いますが、この取り組みにかける想いや背景について、まずはお聞かせください。
日本各地で我々のように地域固有の自然環境の保全や文化の継承に日々ご尽力をされている方はたくさんいらっしゃると思います。皆さんの共通の課題の1つが、自然や文化を対象とした長い時間をかけないとなかなか成果が得られにくい活動分野において、持続的に活動資金や担い手を得て、なるべく長く活動を継続していくことの難しさだと思います。
当会でも継続的な資金獲得と活動の継続性の担保は非常に重要な課題の1つと位置付けており、NFTという新たな技術の活用が、資金獲得のみならず、関心を持って購入いただいた方とつながることによって、その方が我々の活動現場に訪れていただけ、いずれは共に現場で活動いただけるようになる方が出てきていただけるのではないかと期待を抱いております。
ーーー(編集部)フサヒゲルリカミキリを主軸に据えたことには、どのような意図や課題意識があったのでしょうか?また、それを“デジタル”と結びつけた構想の経緯も教えてください。

『フサヒゲルリカミキリ』は、北海道と本州(岩手県、群馬県、神奈川県、山梨県、長野県、鳥取県、岡山県、広島県)で記録がありますが、2000年代以降、長野県と岡山県でしか確認できず、2020年以降、確実に生息が確認できるのは岡山県のみ(注1)となり、急速に絶滅に向かっています。
こうして絶滅の危機に瀕している一方で、珍しいものを見てみたい、集めてみたいという人間の知的好奇心が向くものとして、フサヒゲルリカミキリはマニア心をくすぐる対象となるのではないか?と思いました。
しかし、現在は「絶滅のおそれのある野生動植物の保存に関する法律(種の保存法)」に基づき、フサヒゲルリカミキリは「国内希少野生動植物種」に指定され、捕獲・譲渡・販売目的の陳列や広告・輸出入が禁止されており、一般の方が身近で生きている姿や標本を目にすることが非常に困難な状況になっています(注2)。
そこで、デジタルでフサヒゲルリカミキリの姿を再現して、お手元のPCやスマホで閲覧できるようになれば、関心のある方のマニア心・知的好奇心にお応えできる需要があるのではないかと考えました。
注釈
- 環境省 『自然環境・生物多様性 フサヒゲルリカミキリ』(2025年5月24日閲覧)
https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/husahigerurikamikiri.html- 環境省 『種の保存法の概要』(2025年5月24日閲覧)
https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/hozonho.html
ーーー(編集部)フサヒゲルリカミキリとの出会いや、思い出に残っているエピソードなどがあれば、ぜひ教えてください。

一般的にカミキリムシといえば、体長が2.5cm-3.5cm程度、触覚を入れれば5㎝程度になりクワガタの仲間やカブトムシのように大きいゴマダラカミキリを目にする機会があるかと思います。
私がフサヒゲルリカミキリを初めて目にしたのは、2021年6月の蒜山の草原です。想像していたゴマダラカミキリのイメージよりはるかに小さい昆虫で、しかも蒜山ではユウスゲしか食べるものが無いということにとても驚きました。
かつては蒜山でも人々が草原から草を刈り、緑肥として田畑に草をすきこむなどして草資源を大いに利用してされていて、その当時は今よりも10倍以上広大な草原が広がっていたと聞いたことがあるのですが、その頃は恐らくフサヒゲルリカミキリもたくさんいたのだろうと想像すると、草原の減少とともに数を減らしていくことになり、人間と同じような栄枯盛衰の儚さを感じました。
ーーー(編集部)自然環境保全の取り組みにNFTや3Dスキャンといったテクノロジーを組み合わせる意義について、千布さんご自身としてどのように捉えておられますか?

自然環境保全に限らず、人はどのようなものかわからない未知の新しいテクノロジーに触れると、不安とワクワク感を両方感じるのではないでしょうか?
今回のプロジェクトにつながるご提案をいただいた最初のころは、NFTへの理解がなかなか追い付かず不安な面もあったのですが、お話を伺うなかで段々理解が追い付きました。
そのため、今回、フサヒゲルリカミキリのような「国内希少野生動植物種」と対象とした3DモデルのNFT販売という、国内でも恐らく初な取り組みが、我々が取り組む環境保全活動と、NFTを購入いただいた皆様にとって、どのような相乗効果をもたらすのか、新しい社会実装実験と捉えています。
予想だにしないことが起きるかもという不安を抱きつつも、新たな方々をつながって、共に環境保全活動を盛り上げ、楽しむことができる仲間が増えるのではないか楽しみにしています。